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Shiv TTのトライアスロンにおける有効性

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2026年1月9日

by Specialized

トライアスロンバイクとTTバイク

現在、これらを合わせて「TTバイク」と称している傾向はあるが、明確に分けると2つの形が存在する。


トライアスロンバイクとはアイアンマンなどのロングのトライアスロンを想定して造られたもので、エアロダイナミクスはもちろん、フューエル(補給)&ストレージ(収納)の工夫を凝らしたギミックなどを特長とする専用バイクとなる。アイアンマン世界選手権が開催されるKONAを聖地と位置付け、そこで世界同時発表をするメーカーも多い。


一方、TTバイクはUCIルールに準拠させた仕様であり、ツールドフランスを頂点とする世界最高のプロ自転車ステージレースや世界選手権個人TTでも使用されている、文字通りの「タイムトライアルバイク」となる。また、規定の翼断面形状により、軽量性の高さと個々の差はあるがハンドリング性の高さが特長となる。


各社の開発もまちまちで、トライアスロンバイクとTTバイクの両タイプを作るメーカー、どちらか一方を造るメーカー、兼用とするメーカーもある。また、開発方法として、TTバイクをベースにトライアスロンバイクを造っていたり、トライアスロンバイクからのフィードバックをTTバイクに活かしていたりと様々となっている。

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Shiv TT 

スペシャライズドの誇るTTバイクでShiv TTの第2世代、また、前世代からの大きな変更となるディスクブレーキ化されたモデルとなる。最新の大きなタイトルとしては9月のロード世界選手権個人タイムトライアルにおいてレムコ・エヴェネプールが3連覇を達成するという折り紙付きの完成度だ。


このモデルは、UCI規定の中で随所にこだわりの形状、高いエアロダイナミクスを実現している。前作から傾向のあるボリューミーなフロント周りは今では各社のスタンダードとなっている。また、軽量性とハンドリングの高さにも優れ、幅広く扱い易いTTバイクとしてマルチ性の高さが売りと言っても良いだろう。


Shiv Disc(トライアスロンバイク)が終売となった今、このShiv TTを国内外でトライアスロンレースに導入するライダーが増えている。

実際どんなバイクなのか 

スペシャライズドのアンバサダーもあり、9月のアイアンマン世界選手権@ニースではエイジ5位入賞という快挙を果たしている「TK」こと竹谷賢二選手にお話を伺った。


また、同社社員で元エリート選手として活躍され、現在もレースを楽しんでいる益田(以後MD)にもそれぞれのスタンスで伺っている。

1. トライアスロンで使用されるバイクに求められることとは?

(TK):「まずは「エアロ」ですね。フィジカルパワーに対してのスピード、ひいてはバイクのフィニッシュタイムを短くした上で、ランの含めたトータルフィニッシュタイムの短縮をどう実現できるかが大事になって来ます。」


「次に「快適性」というワードですが、その定義は、もちろん、乗っていて気持ちが良いということではなく、兎にも角にも「エアロフォームの持続性」になります。例えば衝撃が強くてエアロフォームが取りづらいと良くありませんね。


また、快適性を語る上で、重要なワードとなるのが「衝撃性」で、タイヤやホイールシステムが関係して来ます。特に、今はタイヤのアップデートが凄いですよね。28mmとか30mmなどがスタンダードになっています。また、耐パンク性の高いチューブレスへの移行も進んでいると思います。旧態の20mmや23mmの時代に比べればタイヤが太くなることの恩恵とそれに対するトータルのリバランスが取れます。つまり、タイヤやホイールシステムが受ける仕事があるので、フレームの受ける部分を補ってくれているわけです。衝撃吸収性や直進安定性というのは「足元」が決めてくれているなと強く感じています。」


「次に「軽量性」ですが、エアロであればより軽い方が良いということになり、より軽量性を重視しています。軽さはパワーウェイトレシオに代表される軽さと同時に加速時の軽さが役に立っています。巡航している時の軽さは、平坦においてあまり意味はありませんが、車体が軽くてレスポンスが良いと、加速時、例えば40kmに上げるのに楽で時間的に速いです。結果的にコーナーリングの再加速の時間が短いということは、またエアロで乗ることができ、その時間を最大化させることができるという貢献度は高いですね。」


「次に「フューエル」ですが、Shiv TTは物理的にボトルケージが一個しか付かないことが課題でしたが、アイアンマンの最新スタンダードとしてボトルの配置の仕方がハンドル周りやサドル後ろなど、上部への積載となり、フレームではなくなったので全く問題ではなくなりました。また、これは単にフューエル&ストレージのためだけではなく、「エアロの最大公式」であり、そうすることを強く推奨しています。」


「また、単なるエアロ効果ではなく、フューエルを実際に給水として使用した場合、上部が重量増になることのリスクはないわけではありません。考えられることは、下りのコーナーリングでスキルレベルによりますが影響を受ける可能性があります。ただ、下りのコーナーが問題となる時間がトライアスロン全行程の中でどの程度あるか、ということになり、多くの方は問題ないでしょう。


それ以外だと、その人自身のブレーキングやコーナーリングのスキルのキャパシティの方が問題になるかと思います。平坦でもコーナーリングの多いテクニカルなショートなどは懸念されますが、ロング仕様とは異なり、概ねボトルは1本で足りると考えれば、これも問題ないと思います。」

(MD):「一番は「エアロ」を確保していることです。次に「快適性」が必要です。快適性とはまず乗り心地だと思いますが、振動吸収性や直進安定性、無理のないフォームが取れることが重要です。距離にもよりますが、バイクの後にランがあるのでどれだけ余裕を残せるのかということです。」 

 

「選手時代は、それなりにパワーも出ますし、若かったということもあり、頑張れば速くなると思っていました。引退して心掛けているのは、長時間ずっと同じポジションで乗れることです。スタートして最初の30分は、抜かれても気にしないし、上りもDHバーで行けるような感じのポジションと決めています。3時間くらい経った時に崩れないポジションで快適に乗れれば良いと思っています。また、低過ぎるDHポジションなどは取らないようにしています。 

そのあたりは選手時代と気持ちが全く違うところになります。それはバイクに限らず、スイムもランも攻めのフォームでずっと走れましたが、年齢的にも厳しくなって来ています。10歳以上若い時の力は出ないので「いかに頑張らないか」ということがいちばんのテーマです。ただ、そんなに遅くはなっていないと思いますが。(笑)」 

 

「普段はロードバイクを乗っていることが多く、TTバイクはレース直前しか乗らないのですが、Shiv TTは「ロードバイクに限りなく近いTTバイク」だと感じます。Shiv DiscとShiv TTでは「シートアングル」が異なりますが、身体がロードバイクに慣れているということもあり、Shiv TTに乗っても「違和感」がないですね。 

 

また、「軽量性」が良いということです。ロードバイクもそうなんですが、軽いということはすごく良いことですよね。快適に乗れるのはもちろんですが、アップダウンもそんなに気にならないし、普段ロードバイクに乗っている感じでそのまま乗れるというのは私にとっては良いと思っています。 

 

以前、乗っていたTTバイクは、重さがあるのでスピードに乗ってからは良かったのですが、ハンドリングやペダリングなどちょっと慣れるまで時間がかかるかなという感じでした。その点、Shiv TTは誰でも乗り易いのではないかと思います。」 

2. Shiv TT がトライアスロンレースに適している理由とは? 

(TK):「ロングは当然ですが、テクニカルなショートであれば横浜大会に何回か出ています。コース的にはトライアスロンバイクのShiv Discにするのか、ロードバイクのTarmacにするのか、選べる状況と判断していました。実際、どちらかと言えばTarmacで出ることが多かったのですが、今だったら迷うことなくShiv TTになりますね。もちろんアイアンマン70.3などミドルのアップダウンのあるコースなどにも最適です。軽さとジオメトリーが生きて来ますね。」


「益田さんの乗っているバイクはとてもシンプル仕様で軽量(この状態だとペダル込みで約8.0kg )に仕上げられ、ショートディスタンス的なアッセンブルとなっています。それに対し、私のバイクはロングディスタンス仕様となっています。同じバイクでもその人の狙いやキャリアによって大きく変わるわけです。


距離で言えば、UCIの個人タイムトライアル(9月のロード世界選手権では山岳40.6km)、ショートディスタンス40km、アイアンマンディスタンス180.2kmなど多様であり、スピードで言えばロード世界選手権で3連覇となったレムコ・エヴェネプールの50km近いスピードから、40kmの人、30kmの人がいてスピードレンジが広く使用できるというのはとても魅力的ですね。」



(MD):アイアンマンなどロングに出る人はもちろん、横浜大会などショートも結構TTバイクで出る人がイメージ以上に多いのかなと思っていますが、軽いとやはり加速がとても良いので、横浜大会のようなターンの多いコースではShiv TTは向いています。それら幅広い対応力、専用になり過ぎていない扱い易さは、これからの乗り換え、最初のトライアスロンバイクとしてピッタリだと思います。



(TK):「次に軽量性ですが、やはり、アップダウンがある時によりそのメリットを感じるわけですが、ベースとなるフレームが軽いため、更に軽量ホイールとの組み合わせることで、コンプリートとしての軽さがより生きて来ますね。シンプルな良さとはそういうところにあるのではないかと思います。」



(TK):「カスタムのし易さについてですが、実際益田さん仕様の Shiv TTとShiv Discの純正のままを比べた場合、どちらでアイアンマンレースに出るかと言えば、Shiv Discになるかもしれませんが、その人の状況に合わせた仕様にする時はShiv TTの方がカスタムし易いと思います。特に汎用性の高いエアロバー周りに尽きますね。

現在、プロファイルなど大手のメーカーもそうですが、3Dプリンターで作られたカスタムパーツが多くあり、選べる状況となっているので、活用すべきですね。以前はなかったのでメーカー純正など選択肢が少なかったのですが、今は様々なものがリリースされています。」

3. Shiv Discと比べた使用感 

(TK):「トライアスロンバイクというと「アイアンマンのためのバイク」というイメージが強いですが、重さや強度がオーバースペックだった可能性があるのではということが、乗っていて思いました。実際Shiv Discの方が硬いです。その点、Shiv TTは乗り易いですし、フロントフォークもエアロの高さはShiv Discですが、Shiv TTはハンドリング性が良く乗り易いです。一般的に言えばShiv TTの方が乗り易いと思う人が圧倒的に多いと思います。 

 

いずれにしても、Shiv TTが良いのか、Shiv Discが良いのかは、様々な個々の用途に対して、メリットになったり、デメリットになるわけで、どちらかが一概に良いということではなく、狙い通りの走りができるかどうかということが大切ですね。」 

4. Shiv TTを実際のレースで使用してみて 

(TK):ニースのアイアンマン世界選手権に行くことが乗り換えたいと思った、大きなきっかけとなりました。現在、アイアンマン世界選手権は、2023年から開催地をコナとニースで交互に変えて開催しています。(2026年からコナ一本化に戻る)


コナであればもちろんShiv Discでしたが、ニースは山岳地帯となるため、2年前の初挑戦では上りを見越して軽量性を重視し、ロードバイクのTarmacをトライアスロン仕様にして臨みました。ただ、ニースのコースは「エアロと軽量性」の両方が必要でした。 


それを具現化したのが、Shiv Discのエアロ、Tarmacの軽量性という2つの相反する機能が高次元に融合されたShiv TTだったのです。


そして、今年のニースで初めてShiv TTを実戦投入、エイジグループ5位にて表彰台に上がることが出来ました。

5. SNSの反響とは? 

(TK):運用の話が多いと思います。例えば、ボトルの積載数については、実際にこのようにすれば問題なく、ストレージに関しては、ツール缶の使用で足りるわけです。この状態がアイアンマン的運用となるわけです。 

海外からはインスタで問い合わせがありますが、やはり運用面が気になっているようで、「乗り換えたいけどどうなの?」ということだと思います。 

 

(MD):TKさんのDHバーは何を使っているのですか、それはどこで買ったのですか、などの問い合わせが入っています。 

 

(MD&TK):Shiv TTは、現在、グローバルの選手の使用が増えて来ています。つまり、目にする機会が多くなり、その中でもDHバーやフューエル&ストレージなどの見え方がアップデートされているため、注目度が高まっているわけです。あとは軽さですが、本当に誰でも感じることができます。漕ぎ出しが全く違うからです。軽さによって更にShiv TTの優位性が確認できると思います。 

6. 今やカスタムは大前提なのか? 

(TK):「18年のKONAでのShiv Discローンチの時に展示されていたサポート選手のバイクのDHバーはすでにハイハンズなどに変更されていましたが、もう始まっていましたね。発表当日に変わっていたことにも驚きましたが、それだけ個々へのフィットの重要性に敏感であるべきだと感じました。 

 

また、昨今では更に進化し、やはりエクステンションバーは「MONO」(一体型)が良いので、そうなってくると、調整幅が減り、リスクの高いものとなり、メーカーとしては、諦めているところがあるかもしれません。 

 

カスタムへは、初期としては調整できないと良い状態で乗れないので、まずは既存のものを使い、ある程度ポジションが決まったところで、それに合ったものに変えていくというステップが必要だと思います。逆に最初は普通のバーを使って乗ってもらった方が良いと思います。そもそも乗れなきゃ始まらないし、乗れないとどこに不具合があるかも分からないことになります。最初はシンプルさが必要ですね。 

 

順序としてはその人のフォーム、ポジションありきであり、最初はきちんとしたフィッティングをして、明確なポジションが決まったら、カスタムというカタチになるのであって、いきなりカスタムとはなりませんね。 

 

(MD):まずはこの基本型を使ってもらって乗ってから、その感じを含め知ってもらってからカスタムするのが良いと思います。 

 

(MD&TK):モジュールは最初から汎用性の高いスペシャライズドオリジナルのDHバーがセットされています。また、別途ですが、シートポストは「ゼロオフセット」の使用により、25mm程度前乗りに変更が可能です。 

 

(TK):私はある程度フォームが固まって来ていたので、カスタムパーツをつけられました。エアロに対し、アプローチの仕方が変わって来ていて、特に腕の使い方が変わって来ています。今までは腕を低くして抵抗少なくしようとしていましたが、腕を上手く「配置」して抵抗を減らしている。頭に対していかに風を直接当てないようにするためにはどうしたら良いのか、ということですね。ただし、その人の取れる姿勢の高さに対して、腕はどこが良いのかを考えなければいけません。 

具体的には、ペダル位置、腰の位置が決まって、その人の取れる姿勢が決まって、腕をどう使うかで、これはフィッティングの先の話となります。よりアドバンスであり、腕をどう武器として使うのか、その「エアロ化」へのアプローチが進んでいます。 

エアロパーツとしての「腕」 

Shiv TTに限った話ではないが、Shiv TTのカスタム時に考えるべき一つのポイントとなるDHポジション。現在、当たり前のカタチとなったハイハンズとそこに対応したDHバーがアイアンマンバイクとしての象徴的な見映えとなっている。ただし、究極の「ピンポイントポジション」となるため、最終決定の前段階となる「仮説と検証」が重要となるだろう。 

 

(TK):「ハイハンズであれば多くの場合、効果が外れているケースは少ないとは思います。重要なことは、低くすることよりも「隙間を埋める」という考え方であり、その点では近づいていますし、何かしらの効果は生まれていると思います。ハイハンズで上げるということは多くの人にとっては良い方向ではないかと思います。 

 

今までは、ハンドルを低く設定することで、姿勢を低くする、頭を低くするために「ハンドルに身体を寄せる」ということがエアロの考え方でしたが、今は実現可能な維持出来る姿勢に「腕を寄せる」という流れがフィッティングの考え方とも合致しています。「エアロパーツとしての腕」の使い方が更に新しいアップデートしたエアロの考え方ですね。 

 

今までよりも姿勢に対して近づけるという意味では、フィッティング的な考え方から見ると旧態的な低さよりも、遥かに良いと思います。フィッティング的に良くて、腕をエアロパーツとして使えるということは考え方としてもとても大事ですね。」 

パッキングについて 

(TK):「まずShiv Discの時もカスタムのDHバーは外していました。現在の主流のカスタムだとリーチが長いので外さないと収まりません。したがって外す前提で簡単にできるものが良いと思います。これは(TKバイクを見ながら)扱うボルト4本で脱着が可能なので簡単です。それよりもケースに収めた時の安全性がパッキングで重要となります。 

 

そのバイクをパッキングできるように、いかに簡単に外せるか、どんなケースを選ぶのかということになって来ます。当然プロテクションの高いケースを選ぶ必要があります。私はEVOCを使っていますが、インナーフレームが入っていているためほぼ安全ですね。それでもダメならハードケースにするしかありません。」 

最後に 

バイクの決定においては、トライアスロンバイクなのか、TTバイクなのか、エアロ優先か、軽量性優先か、ターゲットレースから身体的特徴及び制限まで、様々な切り口があるだろう。DHポジションは遊びのないピンポイントであり、静止ではなく、動いている時のポジションだけに納得のいく答えは乗りながら出すしかない。専門スタッフによるフィッティング Retül Fit とフォローを受けることが必要だ。有効だ。


そんな中で選択するバイクとして、Shiv TTはエアロ、軽量性など総合バランスの取れた一台であり、ユーザーレベル、コース、距離への対応度は高いバイクと言えるだろう。







筆者紹介:

Triathlon GERONIMO  大塚 修孝(オオツカ ノブタカ)トライアスロンジャーナリスト 
トライアスロンに関わり34年。バイクショップ時代(22年)から、ジャーナリストとしても活動。特に、ロングのレースをメインに、全バイクを撮影し、そのシェア、トレンドなどの分析に注力している。現在は、WEBマガジン「Triathlon GERONIMO」運営の他、バイクスクール、イベント開催、クラブ主宰、バイクフィッターなど、トライアスロンにこだわって活動している。