ワールドツアーを廻るフォトグラファーの生活
RUSS ELLIS,
CYCLING IMAGES
ワールドツアーを廻るフォトグラファーの生活
RUSS ELLIS,
CYCLING IMAGES
プロツアーのプロトンのカラー、美しさ、堂々たる姿、そして苦悩の瞬間は、十分なスキルを持ち合わせた才能豊かなフォトグラファーのおかげで切り取られ、その壮大なショーの一部として残ります。その写真は、ロードレースファンの気持ちを高揚させてくれることはもちろん、コースバリアの向こう側の景色をはっきりと伝え、激戦や歴史的瞬間をその場にいなくても体験できるようにしてくれます。幸運にもプロフォトグラファーのラス・エリスに、サイクリングと写真について、プロツアーを廻るフォトグラファーの生活がどのようなものかを尋ねる機会を得ました。
最初に好きになったのは、サイクリングと写真のどちらですか?
写真です。12歳くらいの時に、35mmの一眼レフカメラを手に入れました。当時はどんなものでも撮っていて、それは今でも変わりません。仕事用のカメラを持っていないときでも、スマートフォンのカメラで写真を撮っています。その後、20代半ばになってから、ロードバイクに乗っていた友達を通してサイクリングに興味が湧きました。
プロのレースを撮影し始めてからどれくらいになりますか?
今年で7シーズン目です。ワールドツアーを初めて撮ったのが、2015年のパリ〜ルーベでした。ですので、昨年開催されていれば、6回目のパリ〜ルーベになっていたはずです。
あなたはサイクリングの印象的なシーンを見事に写し出した写真を撮りますが、そのような作品が生まれるまでの過程を教えてください。撮りたい写真のアイデアがある程度決まっている上で、実際の場所へ行くのか、それともそのときの流れで撮っているのでしょうか?
僕の作品は、よくそう言われます。ウェブサイトを初めて作ったときも、自己紹介のページで自分の作品をそのように表現したくらいです。サイクリングを好きになる前に写真を始めたので、見る人に感情を伝え、単純に競技を写し出すのではなく興味を持たせるような写真を撮るようにしています。
プロツアーのチームと一緒に各地を廻る生活は、想像しただけでカオスですが、1日の流れについて教えてください。
その通りですね!
ツール・ド・フランスのよくある1日はこんな感じです…。
朝は早め、と言っても、午前7時30分くらいに起きます。朝食を食べてから、体を目覚めさせるための軽い運動代わりに1時間ほどライドをします(ステージ開始が遅めの場合)。
僕たち(他のフォトグラファーと一緒にレースを廻ることがほとんど)は、レース開始1時間半前にスタート地点まで車で行きます。スタートを撮影し、プレス用の駐車場に車を停めるためです。
カメラや機材の準備をしたら、ファン向けの交流エリアへ行きます。無料のお菓子やコーヒーが用意されているので、フォトグラファーのほとんどがここで集合します。そして、その日に計画しているルートについて話し合います。僕は、レース中にモーターサイクルを使わないフォトグラファーたちと行動します。これは、GettyやAPといった広告代理店に所属するフォトグラファーがモーターサイクルを使うためです。自分たちの車でルートに沿って走り、何箇所も停まって撮影します。選手たちが通り過ぎたら、レースとは違うルートで彼らを先回りしては撮影を繰り返し、さらにはゴールの瞬間も待ち構えていなければなりません。そのため、味の薄い無料のコーヒーを飲みながら、先回りのルートを議論するのです。
その後はチームバスや表彰台の周りでファンにサインをする選手たちを1時間ほど撮影し、レースに備え、スタートの15分前に駐車場へ行き、最初の撮影場所まで車で移動します。
良いアングルを探し、撮影したら、車へ急いで戻り、レースとは違うルートで選手たちの先回りをします。3箇所で撮影できれば良い方で、1箇所でしか撮影できずにゴールに向かう日もあります。すべては現地の道路のレイアウト次第なのです。
ゴール地点に着いたら車を停め、ゴールラインに向かいます。駐車場から実際のゴールまでの移動時間を考えて、選手たちより20分早めに到着するようにしています。そして、選手たちが姿を見せたら、優勝者をしっかりと収められていることを祈りながら、できるだけ多くの枚数を撮影します。
表彰式を撮影したら、プレスルームに移動して、写真の取り込みと編集を行ないます。編集の所要時間は、2時間は確実にかかるので、午後8時前後には作業が終了し、写真がクライアントの元に届いていることになります。
その後、数十分ほど離れたホテルまで車で移動します。午後9時にチェックインしたら、夕食を食べる場所を探しますが、レストランが早く閉まるフランスでは毎回苦労します。動き続けた1日も、午後11時にベッドに入ることでやっと終わります。
これを毎日、21日間繰り返すのです!
なんてことないでしょう?
新型コロナウイルスによって、撮影や行動に影響は出ていますか?
実はそれほど大きな影響は出ていません。ツール・ド・フランスでは、僕たちフォトグラファーは朝にチームパドックや表彰台に近づくことが許可されていません。そこで、朝はスタートに行く代わりに、レースのルートへ繰り出し、通常通りに撮影しています。ゴールラインでは、今までのようにひしめき合って撮影することはできませんが、横から撮影できるので、それほど問題ではありません。
ジロ・デ・イタリアでは、チームバス以外、今までと同様のアクセス権がフォトグラファーに与えられているので、ほとんど変わりはありませんでした。しかし、スタートの表彰台やゴールライン付近では、フェイスマスクの着用が必須です。
撮影中、最高の瞬間と最悪の瞬間はどんなときですか?
どちらもこれと言ったものはありませんが、2020年のツール・ド・フランスは間違いなく最悪な瞬間が何度かありました。1箇所しか撮影できないステージが複数あり、撮れ高がガクンと下がってしまったからです。クライアントに写真を数枚しか渡せない状況は、何としても避けたいところです。山岳ステージの日は、だいたい良い日が多いです。雄大な景色の中、限界に挑む選手たちの周りで観客が群がっているので、撮れる写真も良いものになるからです。また、集団に間隔が空くため、選手全員を撮影する機会も増えます。
撮影後の最高の経験は何ですか? それとも、そんな日はあり得ませんか? カメラなしでレースを観戦したことはありますか?
カメラを置いてレースを見に行ければ最高ですね。僕自身がサイクリストなので、編集作業を終えたら、できるなら自分のバイクでルートの一部を走ってみたいです。昨シーズンにベルギーに滞在したときは、春のクラシックの開催と被っていました。各レースの間にライドに行く時間がたくさんあり、最高でした。ツール・デ・フランドルやルーベで通る石畳区間の多くを走れたと思います。
難しい質問かもしれませんが、お気に入りの1枚を教えてください。またその理由は何でしょうか?
まだこれといったお気に入りの1枚はありません。撮影のたびにより良い写真を残せているように感じていて、こう撮れれば良かったなと思うことはよくあります。今シーズンのツール・ド・フランスからなら、お気に入りの写真を選べるかもしれません。と言うのも、気に入った1枚があるんです。それは、雄大に広がった雲の間から光が差し込む中を下る、ネルソン・オリヴェイラの写真です。シンプルですが、良い写真だと思っています。
普段使用されている撮影機材を教えてください。
すべての機材をSonyで揃えています。ボディはSony A9を2台とSony A7r4を1台。Sonyのレンズを何本も持っていきます。よく使うレンズは100-400mmと16-35mmですが、人物などを撮るときは被写界深度の浅い(ボカシを作りやすい)55mmや85mmのレンズも使います。
レースの素晴らしい写真を届けてくださり、そしてインタビューにお応えいただき、ありがとうございました。
彼のウェブサイトやInstagramから、さらなる作品を見て見ましょう。
ウェブサイト: www.cyclingimages.co.uk
Instagram: @cyclingimages